意識とは何か?

意識とは何か、それを解明するための最新理論について、統合情報理論(IIT)、グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論(GWT)、自由エネルギー原理(FEP)、受動意識仮説、量子脳理論についてまとめました。

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目次

意識とは何か?

意識(Consciousness)とは、人間や動物がもつ、自己の存在を認識し、外界や内部状態に対して主観的に知覚する、主体的な経験や知覚、感覚、思考などの総体を指します。

意識は、個人の経験として捉えられ、人によって異なる場合があります。例えば、同じ刺激に対しても、個人の人格や環境によって異なる反応を示すことがあります。

意識は、主観的な経験として捉えられるため、科学的に測定したり解明することが難しい側面があります。しかし、脳科学や哲学などの分野では、意識がどのように発生するか、意識は脳のどの部位と関係しているか、意識とは何かといった研究が進んでいます。

現代の科学では、意識を説明するために、様々な理論が提唱されていますが、まだ完全に解明されていない複雑な現象の一つとされています。

クオリアとは何か?

私たちが覚醒状態にあって主観的な意識経験をしている時の、その意識の中身のことを「クオリア」と言います。

クオリアには様々な種類があり、色のクオリア、痛みのクオリア、思考のクオリアとは、それぞれに特有の感じの(感覚的な)主観的な経験を指します。

狭い意味でのクオリアは、例えば、赤いリンゴの「赤さ」を指す場合があります。ある一瞬の意識経験における何らかの場所や、意識に上っている物体の一部から選び出した意識経験のある一側面、一つの特徴と言えます。

広い意味でのクオリアとは、「赤いリンゴを手に持ち、それをキッチンで切って、今から食べようとしている」というような、ある一瞬の意識経験の質すべてを指します。

脳科学では「クオリアはなんらかの脳活動によって生み出されている」と考えられている一方で、クオリアは外部から観察できない現象なので、その存在を認めない研究者もいる。ロボットにはロボットなりの特殊なクオリアが存在するかもしれないという意見や、主観的経験をしているように見えるロボットにはクオリアの存在を認めても良いのではないかという意見もあります。

意識のハード・プロブレム

脳そのものは物質および電気的・化学的反応の集合体です。そのような脳からどのようにして主観的な意識体験(クオリア)が生まれるのかという問題を、意識のハード・プロブレムと言います。

オーストラリアの哲学者デイヴィット・チャーマーズによって提起されました。

対となる概念として、脳における意識を伴う情報処理の物理的過程のみを扱う問題を、意識のイージー・プロブレムと言います。

哲学的ゾンビ

チャーマーズは、意識のハード・プロブレムの思考実験として、「哲学的ゾンビ」を考案しました。

ゾンビが住む世界を想像してみてください。ゾンビと言えば、腐った体、抜け落ちた足、よたよた歩きをしながら、こちらに近づいてくる様子が想像できますが、彼らの外見は、普通の人間とまったく同じです。仕事があり、家族があり、遊びに行きます。「本物の」人間との唯一の違いは、実際に考えているのではなく、考えているように見えるだけだという点です。意識を持っているようにみえますが、実際には持っていません。針でつつくと「イタイ」と叫びますが、実際には彼らには痛みなどまったく感じていません。

彼らと本物の人間の違いは、どうしたら判るでしょうか。 「機能的状態が同一である二人の人間のうち、クオリアを全く持っていない方の人間」を、どうしたら判るでしょうか。

意識を解明するための最新理論

1. 統合情報理論(IIT)

アメリカの精神科医・神経科学者のジュリオ・トノーニは、2004 年に意識の「統合情報理論(IIT, integrated information theory)」を発表しています。

意識が生まれるためには、情報の統合が行われる必要があり、その統合された情報の量は、意識の量に対応しているという理論になります。

私たちの体験する主観的な意識は、その身体の所有者のみに存在するという考え方が前提となっており、主観的に体験する情報が統合されて、はじめて意識が芽生えます。

例えば、あなたが、ダイニングテーブルの前に座り、家族と一緒に笑いながら、食事を楽しんでいることを思い浮かべてください。「ダイニングテーブルに座っている」「家族と笑っている」「食事を楽しんでいる」、その一つ一つの体験から、「あなた」という意識が浮かび上がります。今、あなたがした体験は「あなた」に固有のものです。「あなた」のみに存在し、「あなた」から切り離すことはできません。

そして、その体験する情報の量が多い時には、「あなた」という意識の量が多いことになります。意識を生み出すこの量や複雑さを Φ(ファイ)という数値で定量化します。Φ が 0 のとき意識は生まれず、Φ が大きくなるほど意識が強くなります。

人間の脳は、他の動物に比べて量や複雑さは大きくなっており、非常に大きな Φ の値となっており、意識が強いと言えます。これは、神経細胞同士がシナプスを介して密に情報をやりとりすることで情報が統合されていると言えます。

この理論が正しければ、コミュニケーションの取れない植物状態の人でも、脳活動から統合情報量を計測することで意識レベルを測ることが可能になると考えられています。


2. グローバル・ニューロナル・ワークスペース理論(GWT)

心理学者のバーナード・ベアーズが提唱した「グローバル・ワークスペース理論(Global Workspace Theory; GWT)」を脳科学的に検証できるように発展させた理論です。

グローバル・ワークスペースは、さまざまな無意識処理からのぼってくる情報をフレキシブルに保持・処理する神経機構を指しています。これを説明するには、劇場の比喩がよく用いられます。意識は劇場であり、選択的なスポットライトがステージのある場所を照らします。その照らされている場所、そこで演じている役者が意識であり、闇から見つめている観客が無意識である。ステージの裏では、同じ闇の中に演出家、アシスタント、台本作家、ステージデザイナーがいる。彼らは、照らされている場所を決める役割を担うが、目に見えない存在です。

つまり、情報の統合や、選択的注意をもたらすプロセスに注目し、これらのプロセスがグローバル・ワークスペースに関わった結果として、意識が生み出されます。

人の脳は、脳内の複数の機能(視覚や聴覚、運動や言語など、特定の機能に特化したいくつものモジュール)から構成され、それらを共通の潜在空間を介して接続した結果として、意識が生み出されます。意識は、これらの機能間で情報を橋渡しする役割を担っていると言えます。


3. 自由エネルギー原理(FEP)

自由エネルギー原理(Free Energy Principle; FEP)は、生命現象に対する統一的な理論的枠組みを提供することを目的として、神経科学者のカール・フリストンによって提唱された理論です。

FEP は、生命現象をエントロピー最小化のプロセスとして捉えます。生命現象を取り巻く環境は常に変化し、生物はその変化に対応して自己を維持する必要があります。FEP では、生物はその環境との相互作用を通じて、自由エネルギーを最小化するように行動するとされています。自由エネルギーは、環境との相互作用によって生じるエントロピーの増大を防ぐために必要なエネルギーのことで、自由エネルギーを最小化することが生命現象を維持するための重要な要素とされています。

生命現象をエントロピー最小化のプロセスとして捉えることで、生命現象の多様な側面を統一的に理解することができるとされています。

FEP は、現在も発展途上の理論ですが、脳科学や人工知能、ロボット工学などの分野での研究に活用されています。


4. 受動意識仮説

受動意識仮説(Passive Frame Theory)は、哲学者のトマス・メッツィンガーや慶応義塾大学の前野隆司教授によって提唱されている仮説です。

この仮説によれば、私たちの意識とは、外界の刺激に対する「受動的な」反応のフレームであり、私たちは外界の出来事をただ観察しているだけで、それを活発的に処理しているわけではないとしています。

意識は、脳の無意識の部分が動作した結果を受動的に受け取って、あたかも自らが主体的に意図したかのように、つまり、「幻想」「内部的な反映」をリアルであるかのように錯覚する機能に過ぎないと、述べています。私たちの意識は、外界にある実在のものとは直接関係がなく、私たちの脳がその情報を解釈して作り出しているものとされています。

この仮説の根拠として、ベンジャミン・リベットによる実験が引き合いに出されます。多くの人は「自分の意思で指を曲げようと決めたから、指が曲がった」と考えるが、その指を曲げる動作をしようとする「意識的な意思決定」以前に、「準備電位(Readiness Potential)」と呼ばれる無意識的な電気信号が立ち上がるのを確認した実験になります。意識で感じるよりも、無意識下の指令の方が先行することを示しています。※様々な反論があります。

この受動意識仮説は、意識の本質に関する議論に対して新しい視点を提供するものであり、意識の認知的側面に焦点を当てています。

5. 量子脳理論

物理学者であるロジャー・ペンローズによって提案された、意識や人間の思考についての理論です。

この理論は、古典的な計算モデルでは説明できない意識の本質について、量子力学の原理を応用することで説明しようとする試みです。

ペンローズの理論では、意識や思考の基盤となる脳の活動は、古典的な計算の範疇を超えた量子的なプロセスによって説明されると主張されています。具体的には、脳の中の微小な構造やタンパク質の振る舞いが量子力学の原理に従っており、その量子的相互作用が意識の起源に関与しているとされています。

ペンローズによれば、脳の「微小管」で波動関数の収縮が起こると考えています。「微小管(マイクロチューブル)」とは脳の神経細胞にある器官で、ペンローズは、アメリカの麻酔学者、スチュワート・ハメロフ博士から、この微小管が幾何学的な構造をもち、量子的な働きをしている可能性があるとの情報を得て興味をもちました。微小管は、チューブリンというタンパク質が円筒形に連なっており、このチューブリンは伸びた状態と縮んだ状態の 2 種類の形を取ることができ、この 2 つの状態が量子的な重ね合わせとして機能すると仮説を立てました。

この理論は、意識の起源や自己の統一性など、古典的な計算モデルでは説明が難しい心の問題に対して新たな視点を提供するものとされています。しかし、ペンローズの量子脳理論については科学的な合意が得られているわけではなく、議論が続いています。一部の科学者や哲学者はこの理論を批判し、脳の活動や意識の起源を古典的な計算モデルで説明しようとする立場を支持しています。